高速で回る換気扇の羽の中に指を入れられる
ホットケーキミックスを潰した一丁の豆腐と卵と牛乳を混ぜたボウルの中に入れてドーナツの生地を作る
昨日、夜遅く仕事から帰った母に、油臭いと言われたキッチンを今日こそは完璧に後始末をしようと思って換気扇を回した
コンロの側面、少し上の壁についている小窓から垂れる紐を引くと羽は回る
紐を引くという私の意思が換気扇の羽を回す
高速で回る換気扇の羽は、扇風機のそれと違ってガードが無い
私の意思さえあればその回る羽に私は私の指を突っ込める
紐を引いて、回る羽の速度が徐々に増していって、1枚1枚を目で追えなくなるまでいつも換気扇を凝視してしまう
そしてこの一体化した羽、もはや円盤に指を突っ込んだらこの手はどうなるだろうとひたすらに考えてしまう
この緊迫感
学校にあった赤い警報ベル
ひとりでいるとき、あの警報ベルを覆っている薄いガラスを力を入れないように指を触れてみる
今ここで指の圧を高めれば、鳴る
自分の意思さえ働けば
どちらも実行したことはない
別にこういうスリルが好きなわけじゃない
人に迷惑をかけたいわけじゃなくて
ただ、自分には意思がある、意思があって、この行動を選ばない、と思える
それだけある